「自立したいので生活保護を辞退したいです」
そう伝えたのに、福祉事務所に認めてもらえなかった。
一度ならず、二度、三度、四度…何度申し出ても受理されない。
実は、こうしたケースは珍しくありません。
生活保護を受けることは権利です。
でも同じように、生活保護を辞退することも、本来は本人の権利のはずです。
ところが現実には、「まだ早い」「収入が不安定」「また困ることになる」と引き止められ、辞退が認められないことがあります。
その結果、国民健康保険に加入することもできず、無保険状態に陥ってしまう人もいます。
この記事では、生活保護停止決定通知書とは何か、なぜ辞退が認められないのか、そしてどうすれば自分の意思を尊重してもらいながら自立への一歩を踏み出せるのかを解説します。
生活保護を辞退したいのに認めてもらえない
まず、実際に起きているケースを見てみましょう。
Bさんの場合(30代・元生活保護受給者)
- アルバイトから正社員になれることが決まった
- 福祉事務所に「生活保護を辞退したい」と申し出た
- ケースワーカーから「まだ早い。試用期間が終わってから」と言われた
- 試用期間が終わり、再度申し出た
- 「もう少し収入が安定してから」と言われた
- 3ヶ月後、また申し出た
- 「本当に大丈夫?また保護が必要になったら困るでしょう」
- さらに数ヶ月後、4回目の申し出
- ようやく受理されたが、すでに1年近くが経過していた
Bさんは「自分の意思で決めたいのに、なぜこんなに何度も説得されなければならないのか」と感じていました。
何が起きているのか
生活保護の辞退は、本来、本人の意思で決められるものです。
しかし実際には
- 福祉事務所やケースワーカーが「まだ早い」と判断する
- 何度も引き止められる
- 辞退届が受理されない
- 結果として、生活保護を抜けられない
そして、生活保護を抜けられないということは
- 停止決定通知書が発行されない
- 国民健康保険に加入できない
- 仕事をしているのに医療費は医療扶助で対応
- 自立しているのに「保護受給者」という状態が続く
生活保護停止決定通知書とは
停止決定通知書の役割
生活保護停止決定通知書とは、生活保護の受給を停止する決定が下されたことを公式に通知する書類です。
この書類は、主に以下の場面で必要になります。
- 国民健康保険への加入
-
- 生活保護を受けている間は、医療扶助によって医療費が支給されるため、国民健康保険の資格は喪失します
- 生活保護を抜けたら、国民健康保険に加入する必要があります
- その手続きに、停止決定通知書が必要です
- 他の公的サービスの利用
-
- 介護保険
- 高齢者福祉サービス
- 児童福祉サービス など、生活保護を受けていないことを証明する必要がある場合に使います。
停止決定通知書を発行してもらうには
停止決定通知書は、福祉事務所が発行します。
本人が辞退を申し出て、それが受理されて初めて、停止または廃止の決定がなされ、通知書が発行されます。
つまり、辞退が認められなければ、通知書は発行されないのです。
生活保護の「辞退」とは
辞退は本人の権利
生活保護法では、生活保護を受けることは国民の権利とされています。
同じように、生活保護を受けない・やめることも、本人の権利です。
生活保護を辞退したいと思ったら、「辞退届」を福祉事務所に提出します。
でも実際には…
法律上は本人の権利ですが
福祉事務所(ケースワーカー)は、以下のような理由で辞退を認めないことがあります。
- 収入が不安定(仕事が始まったばかり)
- 試用期間中である
- 貯金がない
- 「また困ることになる」という懸念
- 「本人のため」という善意
つまり、本人の意思よりも、福祉事務所側の判断が優先されることがあるのです。
なぜ辞退を認めてもらえないのか
辞退が認められない背景には、いくつかの理由があります。
多くのケースワーカーは、本当に受給者のことを心配しています。
「今は仕事が決まって嬉しいだろうけど、すぐに辞めてしまったらどうするのか」
「収入が途絶えて、また生活に困ったら?」
「もう少し様子を見てからでも遅くない」
こうした善意からの引き止めが起きます。
福祉事務所側には、こんな懸念もあります:
- すぐに生活が行き詰まって、また保護申請を申請する可能性が高い
- 「辞退」を認めた後にすぐ生活困窮になると、「なぜ認めたのか」と責任を問われる
- 慎重に判断したい
つまり、制度を運用する側のリスク回避という面もあります。
特に以下のようなケースでは、辞退が認められにくい傾向があります。
- 障害がある方(「突発的・衝動的な判断では?」と思われる)
- 若い方(「社会経験が少ない」と判断される)
- 養護施設出身者(「支援が必要」と思われる)
- グループホームなど支援施設に入居している方
つまり、本人の判断能力を疑われることがあるのです。
働いて収入を得ると、その分、生活保護費は減額されます。
一定以上の収入があれば、自動的に保護が廃止されます。
しかし、働き始めたばかりで収入がまだ保護基準を超えない場合には保護費の返還になることもあります。
- 生活保護を受けながら働いている状態
- 辞退すると、保護費がなくなり生活が苦しくなる可能性
- だから「まだ早い」と判断される
「停止」と「廃止」の違い
ここで重要なのが、「停止」と「廃止」の違いです。
停止とは
生活保護の「停止」は、一時的に保護費の支給を止めることです。
- 失業保険の受給で一時的に収入が増えた
- 短期のアルバイトで収入が基準を超えた
- 入院などで一時的に保護が不要になった
停止の特徴は下記のとおりです。
- 生活保護受給者の資格は継続している
- 保護費が支給されないだけ
- 概ね6ヶ月以内に再び保護が必要になると予想される場合に停止
- 再開の申請をすれば、すぐに保護が再開される
廃止とは
生活保護の「廃止」は、完全に保護を終了することです。
- 継続的な収入が保護基準を超えた
- 本人が辞退を申し出て、それが受理された
- 生活保護が不要になったと判断された
廃止の特徴は下記のとおりです。
- 生活保護受給者の資格が消滅
- 再度保護が必要になった場合は、新たに申請が必要
- 審査も最初からやり直し
どちらを選ぶべきか
働き始めたばかりで、まだ収入が不安定な場合には、まずは「停止」を提案するのが現実的です。
停止なら
- 仕事がうまくいくか様子を見られる
- もし仕事を辞めることになっても、すぐに保護を再開できる
- リスクが低い
ケースワーカーも、停止なら受け入れやすいかもしれません。
停止決定通知書の取得方法
では、実際に停止決定通知書を取得するにはどうすればいいのでしょうか。
まず、担当のケースワーカーに相談します。
- 伝えるべきこと
-
- 仕事が決まった(またはすでに働いている)
- 収入の見込み
- 生活保護を停止したい(または辞退したい)
- 準備しておくとよいもの
-
- 雇用契約書のコピー
- 給与明細(あれば)
- 収入の見込み額を示せる資料
いきなり「辞退(廃止)」を申し出ると、引き止められる可能性が高いです。
まずは「停止」を提案してみましょう。
「仕事が決まりました。まずは停止にして、半年ほど様子を見させてください。安定したら廃止にします」
これなら、ケースワーカーも受け入れやすいかもしれません。
停止が認められたら、必要な手続きを行います。
- 収入申告書
- 雇用契約書のコピー
- 給与明細
- その他、福祉事務所が求める書類
手続きが完了すると、生活保護停止決定通知書が発行されます。
通知書の発行までには、通常1〜2週間程度かかります。
ただし、自治体や福祉事務所によって異なるため、必ず確認してください。
国民健康保険への加入手続き
停止決定通知書を取得したら、次は国民健康保険への加入手続きです。
- 手続きの期限:14日以内
-
生活保護の廃止または停止が決定したら、14日以内に国民健康保険への加入手続きを行う必要があります。
この期限を過ぎると、無保険状態になり、医療費が全額自己負担になってしまいます。 - 手続きの場所
-
市区町村の国保担当窓口で手続きを行います。
- 国保市民課
- 市民サービス課
- 保険年金課
など、自治体によって名称が異なります。
- 必要な書類
-
国民健康保険への加入手続きには、以下の書類が必要です。
必ず必要なもの- 生活保護停止決定通知書(または生活保護廃止決定通知書)
- 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
- マイナンバー(個人番号)がわかるもの
- 世帯主のマイナンバー
場合によって必要なもの- 印鑑
- 委任状(本人以外が手続きする場合)
- 注意:保険税は遡って請求される
-
国民健康保険の手続きが完了すると、保険証が発行されます。
ただし、保険税(保険料)は生活保護の停止日または廃止日まで遡って請求されるため、注意が必要です。
例えば
- 4月1日に生活保護が停止
- 4月10日に国保の手続き
- 4月1日〜の保険税を支払う必要がある
- 通知書が届いていない場合
-
もし停止決定通知書がまだ手元に届いていない場合でも、窓口で相談してみましょう。
同じ市区町村内であれば、福祉事務所と連携して確認してもらえることがあります。
その場合、生活保護受給証明書などで代用できる場合もあります。
辞退が認められない時の対処法
何度申し出ても辞退が認められない場合、どうすればいいのでしょうか。
まず、ケースワーカーが何を心配しているのかを聞いてみましょう。
- 何が不安なのか?
- どんな条件なら認めてもらえるのか?
- いつ頃なら大丈夫か?
ケースワーカーの懸念を理解した上で、自分の状況や計画を丁寧に説明します。
いきなり「辞退」ではなく、段階的なプランを示すと受け入れられやすくなります。
- まずは3ヶ月間、仕事を続けてみる
- 3ヶ月後、収入が安定していたら停止にする
- 停止で半年様子を見る
- 問題なければ廃止にする
こうしたステップを踏んだ計画を示すことで、ケースワーカーも安心しやすくなります。
口頭での申し出だけでなく、書面で辞退届を提出することも検討しましょう。
書面にすることで
- 本人の意思が明確に記録される
- 「言った・言わない」のトラブルを防げる
- 福祉事務所も正式に対応せざるを得なくなる
ただし、書面を出しても受理されるとは限りません。
担当ケースワーカーが認めてくれない場合、上司や別の職員に相談してみるのも一つの方法です。
ケースワーカー個人の判断ではなく、組織としての判断を仰ぐことができます。
それでも認められない場合は、外部の相談機関に相談しましょう。
- 生活困窮者自立支援窓口
-
- 市区町村の福祉課に設置
- 生活保護以外の支援制度の案内
- 自立に向けた相談
- 居住支援法人
-
- 住まいと生活の相談
- 自立支援のサポート

私たち「soratobunezumi合同会社」も、茨城県で居住支援法人として活動しています。
最終的な手段として、都道府県知事に対する審査請求という制度もあります。
福祉事務所の決定に不服がある場合、都道府県知事に審査を請求できます。
ただし、手続きが複雑なため、弁護士や支援団体のサポートを受けることをお勧めします。
グループホームや支援施設での引き止め
辞退の問題は、さらに複雑になるケースがあります。
グループホーム運営アパートに住んでいる場合
障害のある方が、グループホームが運営するアパートに入居しているケースがあります。
こうしたアパートでは
- 形式上は「賃貸アパート」
- でも実際には:時間制限、外出制限、スタッフによる監視
- 実質的にグループホームと変わらない管理体制
このような環境にいる方が「自立したい」「生活保護を辞退したい」と言っても難しい場合があります。
- 支援者側の反応
-
- 「見守りなしでは難しい」
- 「衝動的な判断では?」
- 「また困ることになるのでは」
- 結果
-
- 辞退が認められない
- 本人の意思が尊重されない
- 「逃げ出す」という選択をしてしまう人もいる
養護施設出身者の場合
養護施設(児童養護施設)を出た後、生活保護を受けてアパートに入居したケースもあります。
- 背景
-
- 施設を出る際、就職が決まっていなかった。周囲(施設職員、福祉関係者)が心配して生活保護受給を勧めた
- 本人はあまり望んでいなかったが、断り切れずに受給
- 施設育ちで、ずっと「管理される側」だった
- やっと自由になれると思ったのに、生活保護=また「管理される」感覚
- 結果
-
- 生活保護を受けること自体がストレス
- 自由になりたい、自分で決めた人生を生きたい
- でも辞退は認められない
- 耐えられなくなって失踪する
善意が本人を追い詰める
これらのケースに共通するのは、善意や心配が、かえって本人を追い詰めているということです。
支援者は本当に心配しています。
でも、その心配が本人の意思決定権を奪い、結果的に選択肢を狭めてしまっているのです。
失踪という最悪の選択
辞退が認められず、どうしようもなくなった人が選ぶ最後の手段が「失踪」です。
失踪すると何が起きるか
生活保護受給者が失踪すると
- 福祉事務所は連絡を試みる
- 電話、訪問、手紙など
- 連絡が取れない状態が続くと「失踪」扱い
- 生活保護は強制的に停止または廃止される
- 生活保護が切れる
- 本人の意思に関わらず、保護が終了
- ある意味、「辞退が認められた」ことになる
でも、その先は…
失踪によって生活保護を抜けたとしても
- 無保険状態
- 医療費が全額自己負担
- 病気やケガをしても病院に行けない
- 住所不定
- 住民票を移していない
- 行政サービスが受けられない
- 支援から切れる
- 何か困ったときに相談できる相手がいない
- より危険な状況に
- 生活が行き詰まっても、助けを求められない
失踪は、自立ではなく、孤立です。

本人の意思を尊重した自立支援とは
では、どうすれば本人の意思を尊重しながら、安全に自立への道を進めることができるのでしょうか。
支援者(ケースワーカー、施設職員など)は、まず本人の話をしっかり聞くことが大切です。
- なぜ辞退したいのか?
- どんな生活を望んでいるのか?
- 何が不安で、何を大切にしたいのか?
一方的に「あなたのため」と決めつけるのではなく、本人の気持ちに寄り添う姿勢が必要です。
自立にはリスクがあります。 それを隠すのではなく、正直に伝えることが大切です。
- 収入が途絶えたらどうするか
- 医療費や生活費はどう賄うか
- 困ったときの相談先はあるか
その上で、本人がリスクを理解した上で選択できるようにすることが重要です。
いきなり廃止ではなく、段階的なステップを提案します。
- まず「停止」にする
- 3ヶ月〜半年、働きながら様子を見る
- 問題なければ廃止する
- もしうまくいかなければ、すぐに再開できる
こうした安全網を用意することで、本人も支援者も安心できます。
もし自立がうまくいかなかったとしても、また支援を受けられるという安心感が必要です。
- 生活保護の再申請ができる
- 居住支援法人などに相談できる
- 一度失敗しても、もう一度チャレンジできる
最も大切なのは、本人の意思決定権を尊重することです。
障害があっても、若くても、施設出身でも、一人の人間として尊重される権利があります。
支援者ができるのは
- 情報を提供する
- リスクを説明する
- 選択肢を示す
- 伴走する
でも、最終的に決めるのは本人です。
まとめ:辞退は権利、でも一人で抱え込まないで
生活保護を辞退することは、本人の権利です。
でも現実には、さまざまな理由で辞退が認められないことがあります。
生活保護を辞退したい、自立したい。
その気持ちは尊重されるべきです。
でも同時に、一人で抱え込まないでください。
辞退が認められなくて困っている。
どうすればいいかわからない。
誰かに話を聞いてほしい。
そんなときは、相談してください。
茨城の生活困窮者自立支援
住むところの相談や生活の安定に向けた支援を行っています。
必要なヒト・モノ・コトがあれば、人生のバックヤードにご相談下さい。
soratobunezumi合同会社は、茨城県居住支援法人第8号です。
