2025年2月26日に、2日間に分けて関東・甲信越ブロック研修が行われました。
高崎シティーギャラリーコアホールと、群馬県社会福祉総合センターでの開催です。


1日目の内容について
開催場所 | 高崎市シティーギャラリー コアホール |
開催日 | 2月26日(水)13:00〜17:00 |
参加費 | 無料 |
参加対象 | 司法・福祉関係者や地域の方、学生の方などどなたでも参加可能 |
主催は、一般社団法人全国地域生活定着支援センター協議会です。
プログラム
行政報告
厚生労働省 社会・援護局総務課 矯正施設退所者地域支援対策官 伊豆丸氏による行政報告がありました。
地域生活定着支援センターは平成21年に開設されました。
高齢又は障害により、福祉的な支援を必要とする犯罪をした人等に対し、各都道府県の設置する地域生活定着支援センターが、保護観察所、矯正施設、留置施設、検察庁及び弁護士会といった刑事司法関係機関、地域の福祉関係機関等と連携・協働しつつ、刑事上の手続又は保護処分による身体の拘束中から釈放後まで一貫した相談支援を実施することにより、その社会復帰及び地域生活への定着を支援しています。
引用元:「高齢又は障害により福祉的な支援を必要とする矯正施設退所者等の地域生活定着支援(地域生活定着促進事業)」
令和3年度からは「被疑者当支援業務」が開始となり、社会復帰を見据えた福祉サービス等の利用や自立に向けた生活の支援などが強化されました。
現状、被疑者になり微罪処分、あるいは執行猶予などが言い渡されると、実質そのまま社会へ戻されてまたもとの生活に戻ってしまいます。
そもそもどうして犯罪に至ってしまったのか、その根本にアプローチしない限り、再犯のリスクは高まります。
精神障害や加齢、その他の要因により健康課題を抱える場合など、自立が難しいと判断された場合、なおかつ、本人の希望がある場合において、地域生活定着支援センターの支援が受けられます。
ただ、昨今の課題として、その地域生活定着支援センターが地域で孤立してしまっているということで、センターと地域の支援体制の強化についての取り組みが注目されています。
官民共同・他機関連携による地域全体で支える体制づくりとして、地域の開拓や勉強会、地域生活定着支援人材養成研修事業の開始などがすすめられる予定です。

他県の事例として、山口県では「住居の確保」において居住支援団体も連携に加わる取組が、第二次山口県再犯防止推進計画に組み込まれています。

livebankでも、出所者の相談に乗るケースも増えてきました。
生活の基盤となる住まいの確保について、様々な事例を参考にしていきたいと思います。
「変わる矯正施設、受け止める地域・福祉・医療に求められること」
立命館大学 森久智恵氏による基調講演がありました。
従来の刑罰は、禁錮・懲役刑でしたが、2025年6月より拘禁刑へ一本化されます。
今回創設された「拘禁刑」は、受刑者を刑事施設(刑務所)に拘置し、改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、または必要な指導を行うことができる、というものです。作業を課すという意味では、これまでの「懲役刑」と似ていますし、それでは「懲役刑」に一本化し、刑の名前を変えただけではないかと思われるかもしれませんが、あえて「懲役刑」を廃止し、新たに「拘禁刑」を創設した意義は、課せられる作業を「懲らしめ」としての罰から、受刑者の改善更生・社会復帰のための措置という指向が明らかにされたことにあると考えられます。
引用元:「「拘禁刑」の創設(10月掲載)」
そもそも、犯罪は現象です。
ではどのようにして生じるのか?
障がいや高齢、その他の性格や特徴によって犯罪をするのか?
どうしてあなたは、犯罪を犯していないのか?
という問いかけが印象的でした。
犯罪に至る動機、原因については、世界も含め、今まではこのように考えられてきました。
そして、ともかく予防することが大事だという流れが強まり「再犯防止」をすすめてきましたが、それは結果でしかなく、それでも犯罪は起こってしまいます。
結果として、犯罪に至る必要がない生活をしている=「当たり前に生きる」生活をし続けられている
この状態、「当たり前に生きるための支援」で行われているのが、本人の語りから原因を見つける「ナラティブ」という手法です。
「ナラティブ・アプローチ」とは、相談相手や患者などを支援する際に、相手の語る「物語(narrative)」を通して解決法を見出していくアプローチ方法です。1990年代に臨床心理学の領域から生まれましたが、現在では医療やソーシャルワークなどの分野でも実践されています。
引用元:ナラティブ・アプローチ
原因は一人ひとり違います。
どんな過去があるのか?どうしたいのか?を、当事者目線から学ぶことで、一人ひとりにあったアプローチを考えていくことができます。
また、トラウマ・インフォームド・ケア(TIC)の視点の必要性も挙げられました。
トラウマインフォームドケア(TIC)とは、支援する多くの人たちがトラウマに関する知識や対応を身につけ、普段支援している人たちに「トラウマがあるかもしれない」という観点をもって対応する支援の枠組みです。
引用元:「トラウマインフォームドケア(Trauma-Informed Care:TIC)とは」
実は、2000年頃から刑事司法における障がいのある人に対する福祉的支援の必要性は指摘されていました。
複雑化した課題(コンプレックスニーズ)に対応するため、各県・市町村レベルでの福祉・地域との連携を模索していく必要があります。
犯罪をした人は困った人、ではなく見えにくいニーズのある人。
犯罪現象に至らないための「よりよく生きるための相談」ができる地域づくりの必要性を感じました。
保健所の役割と福祉との連携のポイントについて考える
厚木保健福祉事務所 保健予防課 主任主事 渡邉春美氏からは、「保健所の役割と福祉との連携のポイントについて考える」について。
群馬県太田保健福祉事務所 保健課 保健師 小川和也氏からは、「保健所の役割」について。
前橋市保健所 加藤木 啓充氏からは「保健所の役割 福祉との連携」について。
群馬県こころの健康センター 佐藤浩司氏からは「地域精神保健における行政機関の責任分担と協働」について。
実際のケース対応について各分野からの気付きやアプローチについてのパネルディスカッションが行われ、地域でどのように連携していくかのヒントを得ることができました。
2日目の内容について
開催場所 | 群馬県社会福祉総合センター |
開催日 | 2月27日(木)9:30〜12:30 |
参加費 | 無料 |
参加対象 | 司法・福祉関係者や地域の方、学生の方などどなたでも参加可能 |
第2分科会「入口支援における地域との連携」
2日目は、第1分科会「PCAGIP(ピカジップ)法を用いた事例検討体験」と第2分科会「入口支援における地域との連携」に分かれました。
参加した第2分科会では、前日同様、実践事例をもとにパネルディスカッションが行われました。
神奈川定着 センター長 山下康氏からは「神奈川県における入口支援等の現状と課題」について。
山梨県地域生活定着支援センター センター長 井上修成氏は「山梨県の入口支援の現状について」。
前橋保護観察所 常重洋一氏からは「勾留中の被疑者等に対する生活環境調整」について。
前橋地方検察庁 社会復帰支援担当 長岡忍氏は「入口支援 前橋地方検察庁Ver.」について。

まとめ
入口支援に、地域生活定着支援センターが入ることで、必要な福祉に繋がる機会が増えます。
実際に、2日目に挙手で参加者の統計を取ったところ、半数以上が福祉・司法関係者ではありませんでした。
つまり、それ以外の一般の方や民間の方ということです。
地域をどのようにしていきたいかという意識が高まっていること、そして地域福祉と関連して司法について考える重要さに気づけた2日間でした。